あなたのタックルボックスに、一つは入っているであろう「ザラスプーク」や「マグナムトーピード」。これらを作り出したのが、アメリカの老舗ルアーメーカー**「ヘドン(Heddon)」**です。
100年以上にわたり、なぜヘドンのルアーは世界中のアングラーから愛され続けるのでしょうか?その答えは、一人の男のひらめきから始まった、長く、そして革新的な歴史の中に隠されています。
この記事では、ヘドンルアーの誕生秘話から、現代まで語り継がれる数々の名作ルアー、そして現在に至るまでの壮大な物語を紐解いていきます。
ヘドンの歴史年表
まずは、ヘドンの1世紀以上にわたる歴史の大きな流れを掴んでおきましょう。
ヘドンの誕生 – 始まりはダウアジャック川での“ひらめき”
ヘドンの物語は、1890年代のミシガン州ダウアジャックに遡ります。創業者である**ジェームス・ヘドン (James Heddon)**は、養蜂業を営む傍ら、大の釣り好きとして知られていました。
ある日、彼がダウアジャック川のほとりで休憩中に、何気なく木の枝を削り、それを川へ投げ捨てました。すると、その木片にブラックバスが猛然とバイトしてきたのです。
この出来事に衝撃を受けたジェームスは、カエルの形を模したウッドルアー「フロッグ」を自作します。これが、世界初のウッドプラグ(ルアー)の誕生と言われる伝説的な逸話です。彼はこの自作ルアーで驚くほどの釣果を上げ、その評判は瞬く間に釣り仲間の間で広がりました。
事業化と“オールドヘドン”の時代
仲間からの要望に応え、ルアー製作に没頭したジェームスは、1902年に**「James Heddon and Son」**社(後にJames Heddon’s Sons)を設立。いよいよルアーの商業生産を開始します。
この頃に作られた初期のウッド製ルアーは、一つ一つが手作業で作られており、現代では**「オールドヘドン」**として、コレクターの間で非常に高値で取引されています。
プラスチック革命と伝説の始まり
ヘドンの歴史、ひいてはルアーの歴史において最大の転換点となったのが、プラスチック素材の導入です。プラスチック化により、製品の均一化と大量生産が可能になり、ヘドンルアーは世界中のアングラーの元へと届けられるようになりました。この時代に、今なお愛される数々の伝説的ルアーが誕生したのです。
ヘドンの歴史を彩る代表的な名作ルアーたち
ここでは、ヘドンの名を世界に轟かせた、まさに「レジェンド」と呼ぶにふさわしい代表的なルアーたちを紹介します。
ザラスプーク (Zara Spook)
- ジャンル: ペンシルベイト
- 特徴: ルアーフィッシングの世界に**「ウォーク・ザ・ドッグ」**というアクションを確立させた、トップウォータールアーの金字塔。ロッド操作によって、水面を犬が散歩するように左右へ小気味よく首を振る動きは、魚種を問わず多くのフィッシュイーターを狂わせます。そのシンプルな形状と奥深いアクションは、まさにトップウォーターの教科書です。
ラッキー13 (Lucky 13)
- ジャンル: ポッパー/ダーター
- 特徴: 1920年の発売から100年以上愛される超ロングセラー。下向きに設計された大きなカップが特徴で、ショートジャークでは甘いポップ音とスプラッシュを発生させ、ロングジャークやただ巻きでは水中にダイブして泳ぐという多彩なアクションをこなします。その名の通り、アングラーに幸運をもたらしてくれる存在です。
マグナムトーピード (Magnum Torpedo)
- ジャンル: スイッシャー
- 特徴: ボディ後方に装着されたプロペラ(ペラ)がアイコンのシングルスイッシャー。ただ巻きするだけで、ペラが回転し、引き波と「ジュルジュル」という独特のサウンドを発生させてバスにアピールします。特に、広範囲をスピーディーに探りたい時や、水面が穏やかな状況で無類の強さを発揮します。
クレイジークローラー (Crazy Crawler)
- ジャンル: クローラーベイト(羽モノ)
- 特徴: ボディの両サイドに装着された大きな金属製のウイングが特徴的な、唯一無二の存在感を放つルアー。リトリーブすると、そのウイングが水を掴み、まるでクロールで泳いでいるかのような「カポカポ」という音を立てながら水面を泳ぎます。特にナマズ狙いのルアーとして絶大な人気を誇りますが、バスにももちろん効果絶大です。
ソナー (Sonar)
- ジャンル: メタルバイブレーション
- 特徴: ヘドンが生み出したのはトップウォータールアーだけではありません。この「ソナー」は、世界初のメタルバイブレーションとも言われるルアーです。薄い金属製のボディは、リトリーブすると強い波動(バイブレーション)を発生させ、水中深くにいる魚にもアピールします。冬場のディープ攻略など、現代の釣りに欠かせないメソッドの元祖と言える存在です。
PRADCO(プラドコ)傘下へ、そして現代へ
時代の流れとともに会社経営も変化し、ヘドンは1983年にアメリカの巨大釣具グループ**「PRADCO (プラドコ)」**に買収されます。
これにより、ヘドンはレーベル、アーボガスト、ボーマーといった他の有名ブランドと兄弟になりました。買収後も「Heddon」のブランド名は残り、これまで生み出されてきた名作ルアーたちは、カラーや若干の仕様変更を加えられながら、今もなお世界中のアングラーのために生産され続けています。
まとめ:ヘドンが色褪せない理由
ジェームス・ヘドンの一本の木片から始まった物語は、1世紀以上の時を経て、今なお続いています。
ヘドンがただの「古いメーカー」で終わらないのは、その歴史の中に**「普遍的な釣れる要素」と「革新性」**が共存しているからです。「ザラスプーク」が生み出した“ウォーク・ザ・ドッグ”アクションのように、ヘドンは常に釣りの新しいスタンダードを創り出してきました。
次にあなたがヘドンルアーを手に取るときは、ぜひその背景にある壮大な物語に思いを馳せてみてください。ルアーの一つ一つに込められた歴史を知ることで、次の一匹は、さらに価値のある特別な魚になるはずです。